文化交流展示「海の道、アジアの路」

展示コンセプト


文化交流展示室

1 理念

  • 博物館の基本コンセプトである『日本文化の形成をアジア史的観点から捉える博物館』にもとづき、旧石器時代から近世末期(開国)までの日本の文化の形成について、主としてアジア諸地域との「交流」によって築かれてきた視点から展示します。

  • 展示資料の背景にある歴史・社会現象等について十分な理解ができる展示とします。

2 展示テーマの構成

  • 九州国立博物館平常展示「文化交流展示『海の道、アジアの路』」
    *現在、展示室内はローマ数字ではなく、英数字の1〜5テーマと表記されています。
    • Iテーマ「縄文人、海へ」(3万年前〜2500年前)
      Iテーマ「遊動と定住」の構想 -「縄文人、海へ」(3万年前〜2500年前)-

      九博のいわゆる常設展示は、近世以前の5つの歴史テーマ(大テーマ)からなる日本の文化交流史の展示です。今回から数回にわたり、一昨年作成した展示基本設計の展示構想に基づいて各テーマを紹介していきます。ただし、開館時点を目標とした展示計画では、展示資料の収集状況、保存管理等によるテーマ替えなどによって変化・再構成されるべき性格のものであることを、あらかじめご承知おきください。
      さて、Iのテーマは「遊動と定住」です。「遊動」は人類学でよく使われてきた用語ですが、ここでは旧石器時代を象徴するものとして用いています。狩猟の対象となる大型動物を追いかけて動くというイメージです。「定住」は次の縄文時代を象徴するものと位置付け、人類が一個所に止まり一定の範囲内で狩猟や漁撈や採集に従事することを意味します。
      “遊動から定住へ”と社会進化する人類の営みは、気候変動にともなう人類の移動、新しい道具の出現、土器の使用などの観点から見ていくべきものです。
      九博の基本展示では、特に汎アジア的視点・東アジア史的視点も重視して紹介していきます。
      基本展示室の周縁に位置する関連展示室では、(1)映像展示としての「日本列島の形成」の企画、(2)石器資料を主体とした「日本列島の旧石器文化」、(3)住居址、食生活、葬送、火炎土器・土偶等の項目でイメージされる「縄文文化の発展」(4)縄文時代の農耕と次代の弥生のそれとの対比などの展示計画があります。
      (初出:国立博物館ニュース 655号/2002年9・10月号掲載)

    • IIテーマ「稲づくりから国づくり」(紀元前5世紀〜7世紀前半)
      IIテーマ「イネと鉄」の構想 -「稲づくりから国づくり」(紀元前5世紀〜7世紀前半)-

      標題テーマの「イネ」は弥生時代を、「鉄」は古墳時代を象徴します。弥生時代の日本では中国大陸・朝鮮半島から伝わった水稲耕作「イネ」の導入を契機に本格的な農耕社会が発展しました。また青銅器や鉄器の製作技術の伝播によって、農業生産力も著しく向上し、古墳時代になると、鉄器の生産を掌握した権力者による統治・支配が明確となり、新しい社会秩序が生まれました。「鉄」とはこの社会変化をイメージするものです。
      5〜6世紀には、主に朝鮮半島から「渡来人」によって須恵器・土木・金工・織物などの高度な技術や優れた文物がもたらされました。古墳の出土品や玄海灘に浮かぶ沖ノ島遺跡への奉献品などによって、古墳文化の精華を展示しようと企画しています。
      以上が「稲作文化の渡来」、「弥生社会の発展」、「古墳文化と渡来人」の3つのテーマを軸として構成される基本展示です。さらに、これらと関連する、「アジアの金属器」、「邪馬台国」、「装飾古墳」などのテーマ展示を、それれを関連展示室で行う計画にしております。
      九博は、アジア史の観点から文化交流史の展示を目指しています。テーマIIは考古資料の展示が中心で、それらは日本に限らず、東アジア、さらには東南アジアの地域にまたがるものとして構成されています。
      一昨年の基本設計を経て、いま実施設計の作業に入っていますが、実物資料主体の展示であることは、基本設計で作った展示イメージ図――ケース主体の展示方針――と基本的には変わりありません。確実に展示できる実物資料についても、目下、正式に調整しつつあります。
      (初出:国立博物館ニュース 656号/2002年11・12月号掲載)

    • IIIテーマ「遣唐使の時代」(7世紀後半〜11世紀前半)
      IIIテーマ「仏教と都城」の構想 -「遣唐使の時代」(7世紀後半〜11世紀前半)-

      テーマIIIは中国の唐を機軸に置きながら、新羅・渤海との外交関係も展開する中で国家体制を築き上げていった古代日本の姿を探求します。とくに遣唐使による文化の受容を「仏教」と「都城」のキイワードで見ていきます。
      金石文資料を中心とした漢字文化の受容と展開、文書主義の視点からみた律令国家の確立、国家仏教を支えた写経の展開、鑑真・空海ら渡来僧・入唐僧たちの往来などは「仏教」を象徴するテーマ群です。「都城」のテーマは映像手法を使った展示を検討中です。遣唐使が唐へ持参した品々と唐から運んできた文物などの模型展示も構想中です。
      この時代の対外交易や文化の受容には中国のみならず、古代ユーラシア大陸文化のさまざまな要素が含まれていました。これらを象徴する正倉院宝物(模写模造)を通して、国際色豊かな文化の実態に迫ります。また百済・新羅と日本との文物の影響関係も比較展示の手法で考えます。東アジアの交流の窓口であった福岡市の鴻臚館跡の出土遺物はその実態を活き活きと物語っています。
      関連展示室は、まずインドから中国、朝鮮半島、そして日本に東漸した仏教美術の展開を、仏像を中心に展示します。アジアの古代楽器を知るために音響効果を配慮した特別な映像展示室もあります。大宰府関連のテーマは常時扱う予定です。軍事・外交のみならず西海道の統括に果たした役割など律令制下の大宰府の実像を考えていきます。
      以上のテーマはいわゆる古代史の通史展示ではありません。複数のテーマで構成するテーマ展示が九博のコンセプトです。今年度の実施設計もその基本方針に沿って作業を進めています。
      (初出:国立博物館ニュース 657号/2003年1・2月号掲載)

    • IVテーマ「アジアの海は日々これ交易」(11世紀後半〜16世紀前半)
      IVテーマ「交易圏の拡大」の構想 -「アジアの海は日々これ交易」(11世紀後半〜16世紀前半)-

      IVテーマは中世の文化交流史の展示です。この時代、アジアの海域では貿易船が頻繁に往来し、国と国の枠を超えた地域間の交流が活発に行なわれました。国際貿易都市としての福岡博多では大量の中国陶磁などが出土しています。
      東アジアの貿易基地として栄えた中国浙江省(せっこうしょう)の寧波(ニンポー)は唐代から日本や朝鮮との連絡港であり、中世では日本の勘合船などの入港地でもありました。貿易商人や禅僧、倭寇などによってさまざまな形で中国・朝鮮・東南アジアから文物が運ばれてきました。同様に、日本と朝鮮との交流を担った多彩な人々の活躍も特記されます。進貢船(しんこうせん)の模型展示は、中継貿易として栄えた琉球王国の活躍ぶりをアピールするものです。
      これに対応して関連展示室では、展示内容を深める中・小テーマを用意しました。博多・対馬・琉球などの出土陶磁片によって組み立てる「貿易陶磁の世界」、漆器も加えた「唐物(からもの)へのあこがれ」、禅僧が中世後期の外交を支えた「外交と禅僧」、さらに琉球文化、華人ネットワークで展開した媽祖(まそ)信仰などのテーマがあります。
      以上の展示テーマは2年ほど前に検討した基本設計の企画案です。まず展示構想があって、それに展示資料を当てはめるという作業から考えられたものですが、そのために短期特別展示の性格が強くなりました。現在進行中の実施設計では、常設展示として実施可能な資料(代替資料も含む)を核に、あらためてテーマ構想を再編成する作業を行なっています。
      この再構築にあたっては、国立博物館(東博・京博・奈良博)からの資料提供を中心に検討しています。つまり、可能な限り実物資料によって組み立てる「歴史展示」を目指しています。
      (初出:国立博物館ニュース 658号/2003年3・4月号掲載)

    • Vテーマ「丸くなった地球 近づく西洋」(16世紀後半〜19世紀中頃)
      Vテーマ「東洋と西洋」の構想 -「丸くなった地球 近づく西洋」(16世紀後半〜19世紀中頃)-

      Vテーマは近世の展示です。大航海時代の西洋との接触から、「鎖国」、さらに欧米列強の接近による開国へと進んだ歴史のなかから、特に対外文化交流について、東洋・西洋を含めた視点で見ていきます。
      基本展示は16世紀半ばのキリスト教と鉄砲の伝来の時代から始まります。この時代は東アジア地域全体にとっても激動の時代でした。ここでは、「近世陶磁器」「キリシタン」「南蛮貿易」「朱印船貿易」「豊臣秀吉の朝鮮侵略とその影響」などのテーマを扱います。次の「鎖国」時代では、日本の貿易・外交が 長崎、対馬、松前、薩摩(琉球)の四つの窓口に限られた交流の歴史を取り上げます。貿易相手はそれぞれ対中国・対オランダ、対朝鮮、対アイヌ、対琉球です。最後の「開国」テーマでは、ロシア・イギリス・アメリカ・フランス等による来航が開国への引き金になった時代を考えます。
      関連展示には、「近世の日朝関係と宗家文書」「洋学と世界認識」「日本における学問と教育」等の中テーマがあります。
      以上の展示テーマは、文化交流史の前提となる、歴史的な事件や出来事を扱った対外関係史の性格が強いものになっています。その理由は、検討段階で実際に並ぶ実物資料を明確にできなかったことによります。現段階(実施設計作成中)では、前回でも触れたように、3つの国立博物館の協力を得ながら展示資料を具体的に押さえることができ、実際の展示資料に基づくテーマ構想の立案が可能になりました。例えば西洋、朝鮮および琉球などとの交流を描いた絵画資料、前近代のさまざまな世界観を満載した世界地図、古代から近世までの中国・日本の貨幣、江戸時代の火縄銃、近世考古の出土遺物などがあります。
      他の大テーマと対照的なのは、レプリカ資料がまったく上がっていないことです。それは、近世文化交流資料が今なお、世の中に豊富に存在することに由来しています。これらの実態調査研究が今後の博物館活動の大きな課題であると考えています。
      (初出:国立博物館ニュース 659号/2003年5・6月号掲載)

  • 各大テーマの基本的内容を取り上げた基本展示と、それに関連する歴史事象に焦点をあてた関連展示で構成します。

  • 基本・関連展示ではともに大テーマの下に中・小テーマおよび細目テーマの階層があり、小テーマおよび細目テーマを必要に応じて入れ替えることによって、交流史の体系的な展示を目指します。


「文化交流展示」とは?