Web連載『博物館のひみつ』

[アーカイブ]Web連載『博物館のひみつ』第1部 環境を守る
No.08: 博物館のシックハウス
- 最善の空気質を保つ
[写真1]気密構造の建物-ダブルスキン

[写真1]気密構造の建物-ダブルスキン

 文化財は「空気が悪いな」とか「乾燥しているゾ」などと声を出すことはできないので、環境の悪い状況を身近な人間が事前に察知して対策を講じなければならない。

 九州国立博物館の建物は、平成15年3月に完成した。皆さんが住む新築家屋と同じように、博物館内では新築建物特有のさまざまなニオイに満ちていた。コンクリートから発生するアルカリ性ガス、内装材の木から発生する酸性ガス、壁の塗装や床のシートから発生する揮発性有機化合物(VOCs)などである。これらニオイの成分のいくつかは文化財に悪影響を及ぼすことが分かっていたことから、これら有害ガスの影響を避けるために、博物館では建物の完成から二夏を経過した後の平成17年秋に開館することとなった。九州国立博物館では建築の時からさまざまな有害ガス対策を実施しており、アンモニアガスの放散を抑えるため、コンクリートを現場で流し込むのではなくあらかじめ工場で成形した板状のコンクリート(プレキャストコンクリート:PC板)を用いた。また合板はホルムアルデヒドの放散量を抑えるため[F☆☆☆☆]のものに限定した。

[写真2]空気質測定風景

[写真2]空気質測定風景

 このように資材を吟味して博物館は建築されたが、建物自体の気密性が高い構造となっているために、完成直後はニオイで満ちていたのである。建物の完成後は、博物館内の有害ガス成分量(空気質)を定期的に測定し、館内で働く職員の健康や、文化財が安全に収蔵・展示できる環境を整えていった。収蔵庫や展示室には有害ガスを除去できる機能を持った空調機を設置し、できるだけ空調運転を行うとともに、有害ガスを多く含む空気の悪い場所は、外の空気の取り入れ量を増やし館内空気を入れ換える空調運転を実施した。これらの対策により、現在はほとんどニオイがしなくなっている。

 九州国立博物館は、今を生きる人々が文化財を見て感動する場所であると同時に、文化財を将来へ残すセンターでもある

[2006.02.06掲載]