Web連載『博物館のひみつ』

[アーカイブ]Web連載『博物館のひみつ』第1部 環境を守る
No.02: 博物館ステルス作戦
- 虫の視線と防虫フィルター
虫が見る光と人間が見る光

虫が見る光と人間が見る光

 博物館は文化財にとって最適な環境を維持しています。この環境は虫にとっても住みやすい環境です。私たちは虫を博物館に入れない、繁殖させないために有害生物の早期発見と対策を徹底しています。

 林の中にある九州国立博物館では、虫が施設をめがけて飛来することが予想されました。実際に過去一年間の虫の侵入調査の結果を見てもエントランスホールなどの入り口近くが最も多いことがわかりました。そこで、博物館の中に虫が飛来してこないような計画をたてました。

 虫が建物めがけて飛来する原因には光、風の流れ、臭いなどがあります。中でも照明に引き寄せられる「光誘引虫」は虫被害全体の60%を占めるといわれます。九州国立博物館は全体がガラスの壁に覆われていますから、大量の虫が飛来する危険があります。そこで、虫に博物館が見えないようにする「ステルス作戦」を実行することになりました。

 人が見る光の波長と虫たちが見る光の波長は違います。人間は400〜700nm(ナノメートル)の可視光線と呼ばれる紫から赤にかけての光を感じますが、400nmより短い紫外線や800nmより長い赤外線を光として感じることはできません。一方、虫の多くは紫外線を敏感に感じます。特に350nmを中心とした範囲に強く反応する性質があります。そこで、博物館で使っている光源から350nmを中心とした紫外線をカットすれば、照明に引きつけられる「光誘引虫」は博物館から出る光を認識できないわけです。

人から見た照明と虫から見た照明

人から見た照明と虫から見た照明

 実際に虫が見る光の波長域で見た写真です。人間の目で見た写真と比較すると違いがお分かりいただけるでしょう。さらに、光源に紫外線カットのフィルターを付ければ、虫からは何も見えなくなります。

 これこそ、博物館のステルス作戦です。こんな工夫を凝らしながら、虫を博物館に入れない努力をしています。これも自然との共生を計る九州国立博物館ならではの新しい取り組みです。

[2005.10.20掲載]