展示期間:
平成29年7月15日(土)〜9月10日(日)
展示場所:
文化交流展示室 第9室
概要:
今、世界では水中考古学が脚光を浴びていることをご存知でしょうか?水中考古学とは、その名前の通り,水中にある遺跡(文化財)の調査・研究を行なう学問です。実は海の中や湖のなかには様々な遺跡が数多く眠っています。このたび、文化交流展 特別展示「水の中からよみがえる歴史—水中考古学最前線—」を開催いたします。旧石器時代から明治時代にまでおよぶ各時代の水中遺跡とその出土品を通して、わが国の水中考古学の発展の軌跡をふりかえり、今後の研究の可能性、当館の取組みなどをご紹介いたします。普段はほとんど見ることがない、水の中に眠っていた小さな宝から、よみがえる歴史を感じてみませんか?
水中撮影の様子

沖縄県多良間村高田海岸沖海底調査の様子

沖縄県多良間村教育委員会 九州国立博物館

多良間村の高田海岸の沖では、19世紀に座礁・沈没したオランダ商船の積荷の一部が発見されています。


展示の紹介


プロローグ「海からよみがえる蒙古襲来」

日本を代表する水中遺跡、長崎県松浦市の鷹島海底遺跡を紹介します。13世紀の蒙古襲来(1281年弘安の役)に由来する沈没船が発見され、注目を集めています。モンゴル(元)軍が使用した武器・武具類、船の上での生活に必要な道具、そして、人々の様々な「思い」を伝えるモノが発見されています。これらの資料から、世界史に名を残す悲劇の海戦に参加した人々の声を聴くことが出来ます。
松浦市鷹島沖で発見された管軍総把印

松浦市鷹島沖で発見された管軍総把印

長崎県松浦市教育委員会蔵

モンゴルの国字パスパ文字が刻まれた印。元軍の将校が弘安の役の際に使用したと考えられています。


第1章「水中考古学のあけぼの」

日本における水中遺跡の研究は、20世紀初頭に長野県諏訪湖の湖底から偶然発見された石鏃まで遡ります。日本各地の海や湖の底から過去の人類の痕跡が発見され、水中考古学発展の基礎を築いた遺跡を紹介します。
滋賀県葛籠尾崎湖底遺跡出土の縄文土器

滋賀県葛籠尾崎湖底遺跡出土の縄文土器

葛篭尾崎湖底遺跡資料館蔵

琵琶湖の北限に近い葛籠尾崎では、大正時代から土器などが引き揚げられています。


第2章「水中発掘調査のはじまり」

徳川幕府の軍艦開陽丸の調査は、日本で初めて実施された大規模発掘調査でした。その経験は、坂本龍馬の「いろは丸」の発掘など各地の水中遺跡の調査に受け継がれ、水中考古学研究の基礎が築かれました。
軍艦開陽丸発掘調査の様子

軍艦開陽丸発掘調査の様子

北海道江差町教育委員会蔵

水中から大量の武器類(大砲の弾など)が発見されています。


第3章「最新の水中考古学調査」

近年の科学技術の進歩は、水中考古学に大きな変化をもたらしています。水中の様子を調べる探査技術や水中で正確な位置を記録する方法、また、出土品の保存処理や遺跡の活用の方法など様々な面で急速な発展を見せています。当館は文化庁と協力して諸外国における水中遺跡の保存と活用の取組みの調査や、水中遺跡を発見するための探査技術の向上を目的とした調査なども行なっています。
最新の探査機材で作成した福岡県新宮町相島沖海底地形図

最新の探査機材で作成した福岡県新宮町相島沖海底地形図

福岡県新宮町教育委員会 九州国立博物館

地元漁師の証言のもと、相島の沖にある平安時代の瓦が集まる遺跡を探査しています。


紹介する主な遺跡・出土地点


曽根遺跡(長野県)13000〜10000年前 旧石器〜縄文時代:石鏃
葛籠尾崎湖底遺跡(滋賀県)4000年前 縄文時代:深鉢(縄文土器)
相島沖海底遺跡(福岡県)9世紀 平安時代:丸瓦
倉木崎海底遺跡(鹿児島県)12世紀 平安〜鎌倉時代:青磁碗・白磁碗など
前方湾海底遺跡(長崎県)12世紀 平安〜鎌倉時代:天目、白磁碗など
鷹島海底遺跡(史跡鷹島神崎遺跡)(長崎県)13世紀 鎌倉時代:管軍総把印、てつはう、銅銭、白玉製獅子像など
西浜千軒遺跡(滋賀県)15世紀 室町時代:一石五輪塔
沖ノ島北方海底遺跡(和歌山県)15世紀 室町時代:青磁碗
山見沖海底遺跡(長崎県)16世紀 江戸時代:ハンネラ土器、鉛インゴットなど
高田海岸・オランダ商船遭難の地(沖縄県)19世紀:青花碗、塩釉瓶など
開陽丸遺跡(北海道)19世紀 江戸時代:拳銃、施条榴弾など
推定いろは丸埋没地点遺跡(広島県)19世紀 江戸時代:木製滑車、鮫皮台など
エルトゥールル号沈没地点(和歌山県)19世紀 明治時代:船体の被覆銅板、海軍将校制服のボタン、横浜焼カップなど

沈没船秘話!

水中遺跡は出土品の保存状態が良好な場合が多く、特定の瞬間をそのまま残したタイムカプセルともいうべきものです。特に、沈没船の積荷は海を渡って行なわれた交易の様相を知ることができる貴重な資料です。長崎県小値賀島の山見沖海底遺跡からは、16世紀の東南アジア産の遺物が発見されています。船体などは残っておらず、積荷が流されて広い範囲に散らばっているような状態で発見された遺跡です。それでも、ちょうど東南アジアに日本人町が作られ、国際貿易が盛んな時期の遺跡であるため、注目を集めています。一方、タイで発見されたシーチャン沈没船は、積荷の一部が沈没したそのままの状態で発見されています。タイと日本、遠く離れた場所にある遺跡でも、積荷の種類など比較研究を進めていくことにより当時の国際貿易の実態を詳しく知ることが出来ます。

長崎県山見沖海底遺跡出土の鉛のインゴット

長崎県山見沖海底遺跡出土の鉛のインゴット

長崎県小値賀町教育委員会

小値賀島の山見沖海底遺跡からは、16世紀頃の東南アジア産の遺物が多く見つかっています。このインゴットは、溶かされて鉄砲の弾の原料として使われたのでしょうか?タイから運ばれたと考えられています。

タイ・シーチャン沈没船で発見された鉛のインゴット

タイ・シーチャン沈没船で発見された鉛のインゴット

Brian Richards © Western Australian Museum

山見沖海底遺跡のものと同じインゴットが大量に出土しています。日本にも同じように鉛が輸入されたのでしょうか?


関連イベント

特別講演会「プロカメラマンが魅せる水中遺跡」

日時:
平成29年7月17日(月・祝)14時00分から15時00分
講師:
山本祐司 氏(水中写真家)
場所:
九州国立博物館1階ミュージアムホール
定員:
先着280名(申し込み不要・参加無料)

やっぴい & ランディのサイエンスラボ「水中の宝をさがせ!!」

日時:
平成29年7月23日(日)13時30分から14時45分
場所:
九州国立博物館1階ミュージアムホール
定員:
先着280名(申し込み不要・参加無料)

シンポジウム「水中文化遺産の多様性 - 縄文から龍馬まで - 」

日時:
平成29年8月26日(土)13時30分から17時00分
場所:
九州国立博物館1階ミュージアムホール
定員:
先着280名(申し込み不要・参加無料)

夏休み特別企画「鷹島海底遺跡 よみがえる元寇船VR体験」

日時:
平成29年8月25日(金)〜27日(日)
9時30分から20時00分(最終日は17時まで)
場所:
九州国立博物館1階エントランス
参加料:
無料・申し込み不要

ミュージアムトーク

日時:
平成29年7月25日(火)・8月22日(火)15時00分から30分程度
会場:
九州国立博物館4階 文化交流展示室 第9室
聴講料:
無料(ただし文化交流展の観覧料は必要)
担当学芸員:
佐々木蘭貞 (当館研究員)