特別展

日本磁器ヨーロッパ輸出350周年記念 特別展『パリに咲いた古伊万里の華』

ヨーロッパが愛した古伊万里の全容を

 1659年(万治2)のヨーロッパへの輸出開始から約100年間に、多くの伊万里磁器が海を越えました。輸出が始まった初期の時代から、柿右衛門様式と呼ばれる優美な色絵磁器の時代へ、そして豪華絢爛で大作が多く作られた金襴手へと、100年の間に古伊万里もその様相を大きく変えていきました。
 今回の展覧会では165点の作品によって、100年間に古伊万里がたどった大きな流れを感じていただきましょう。それを通してヨーロッパの人々がどのように古伊万里を愛したのかをご覧いただきます。

初公開!USUI COLLECTION の魅力

 今回の展覧会はフランス・パリに在住し、ヨーロッパの古伊万里を収集された碓井文夫氏のコレクションの日本で初めての公開となるものです。ここで、USUI COLLECTION の魅力を簡単にご紹介いたしましょう。
 ヨーロッパの各地には、古伊万里を含んだ東洋陶磁コレクションがいくつもあります。ドイツ・シャルロッテンブルク宮殿の「磁器の間」、あるいはイギリスのバーリー・ハウスなどがその代表です。 オランダ、イギリス、フランスやドイツなどにあるコレクションは、国によって古伊万里の入ってくる時期や流行の違い、受け入れた人々の階層の違いなどから、どうしても偏りがでてきます。このため一つのコレクションでヨーロッパに渡った古伊万里の全体像を明らかにするのは難しいものでした。
 それに対して USUI COLLECTION では、ヨーロッパで愛された古伊万里の全体像を伝えることを目的のひとつとして収集が行なわれてきたのでした。USUI COLLECTION には、柿右衛門様式や金襴手の優品があり、金襴手に蒔絵装飾を施した逸品も含まれています。その一方で、輸出の初期にヨーロッパに渡った日本国内向けの染付の皿や、日本を代表する名窯柿右衛門窯で、色絵の影に隠れがちな染付の名品などもしっかりと含まれているのです。
 ヨーロッパが愛した古伊万里の素晴らしさに感動し、ヨーロッパを魅了した古伊万里の全体像を見ることができる。それこそが日本で初めて公開される USUI COLLECTION ならではの魅力と言えましょう。

ヨーロッパでの陶磁器の愛し方を

 日本で生まれた陶磁器がヨーロッパでどのように愛されたのか。今回の展覧会では、そうしたことも是非感じて欲しいことのひとつです。ここに掲げた写真は、ドイツのシャルロッテンブルク宮殿に造られた「磁器の間」です。17 〜18世紀には、ヨーロッパの王侯貴族の間で、東洋の磁器で飾り立てた部屋を作ることが流行していました。
 作品ひとつひとつを名品としてじっくり鑑賞する、これもひとつの鑑賞のスタイルですが、ヨーロッパで愛された古伊万里は、彼の地でどのような形で使われていたのかを、少しでもお伝えしたいと考えています。
 ヨーロッパ絵画の中に現われる古伊万里をパネルでご紹介し、ヨーロッパで取り付けられた金ピカの金具によって姿を一変させた古伊万里をご覧いただきます。
 どのような世界ができ上がっているかは、会場でのお楽しみ。

会期

平成22年4月6日(火)〜6月13日(日)

休館日

月曜休館

*(ただし5月3日(月・祝)は開館)

会場

九州国立博物館 3階 特別展示室

開館時間

午前9時30分〜午後5時

(入館は午後4時30分まで)

出品目録

観覧料

一 般 1,300円(1,100円)

高大生 1,000円(800円)

小中生 600円(400円)

*()内は前売りおよび団体料金(20名以上の場合)
*上記料金で九州国立博物館「文化交流展(平常展)」もご覧いただけます。
*障がい者等とその介護者1名は無料です。展示室入口にて、障害者手帳をご提示ください。
*満65歳以上の方は前売り一般料金でご入場いただけます。チケット購入の際に年齢が分かるもの(健康保険証・運転免許証等)をご提示ください。
*キャンパスメンバーズの方は団体料金でご入場いただけます。チケット購入の際に学生証、教職員証等をご提示ください。

主催

九州国立博物館・福岡県、日本経済新聞社、西日本新聞社、TVQ九州放送

共催

(財)九州国立博物館振興財団

協賛

NEC、日本興亜損害保険、九州電力、九州旅客鉄道

特別協力

USUI COLLECTION、太宰府天満宮

協力

日本航空、西鉄旅行

後援

オランダ王国大使館、フランス大使館、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県、九州・沖縄各県教育委員会、福岡市教育委員会、北九州市教育委員会、太宰府市、有田町、STSサガテレビ、西日本リビング新聞社、cross fm、FM FUKUOKA、LOVE FM、天神エフエム、西日本鉄道、㈳日本自動車連盟福岡支部、㈳福岡市タクシー協会、九州日仏学館、福岡EU協会、福岡商工会議所、太宰府市商工会、太宰府観光協会、㈳日本旅行業協会九州支部、西日本文化サークル連合、西日本新聞天神文化サークル

お問い合わせ

050-5542-8600(NTTハローダイヤル午前8時〜午後10時)

ごあいさつ

 1659年(万治2)10月15日、一隻のオランダ船が長崎を出帆しました。オランダ東インド会社の商船フォーゲルザンク号が日本の磁器を載せて、遥かヨーロッパへと旅立ったのでした。載せられていた陶磁器の数は実に5,748点であったといいます。そして、この旅立ちこそが、伊万里磁器がヨーロッパを魅了する第一歩でもありました。この旅立ちから350周年を迎えたのを記念して、日本磁器ヨーロッパ輸出350周年記念「パリに咲いた古伊万里の華」展を開催いたします。
 伊万里磁器のヨーロッパ輸出の始まりは、中国磁器の禁輸によるその代役としてのものでした。有田の陶工はオランダの求めに応じて一気に技術を向上させ、そこから生まれた柿右衛門様式の色絵の優美な表現はヨーロッパの王侯・貴族を魅了します。続いて登場する絢爛豪華な金襴手(きんらんで)によって伊万里磁器輸出は最高潮に達します。
 今回の展覧会では、17世紀後半から18世紀前半にかけておよそ100年間に、ヨーロッパを舞台として花開いた伊万里磁器を、「第1章 欧州輸出の始まりと活況」、「第2章 好評を博した日本磁器の優美」、「第3章 宮殿を飾る絢爛豪華な大作」、そして「第4章 欧州輸出の衰退」という構成でご覧いただきます。
 朝鮮の技術と中国のスタイルで生まれた日本の磁器。ヨーロッパからの求めの中で日本の感性の中で花開いた伊万里の磁器。ヨーロッパ市場に復活した中国陶磁との競争と、その中で生まれた最盛期を迎えた金襴手。これらをフランスで収集された USUI COLLECTION の1,000点を超える作品の中から選りすぐりの名品によってお楽しみ下さい。

展覧会構成
*画像はクリックすると拡大します。
第1章 欧州輸出の始まりと活況【寛文様式、1660〜70年代】

 1659年(万治2)に有田磁器のヨーロッパ輸出が本格的に始まって、1660年代にかけては最も輸出量が多かった時代です。中国磁器を見本としたり、ヨーロッパ陶器の形をまねたものなどがありました。
 食器、酒器などの実用品が沢山あって、そのためか色絵に較べて染そめ付つけの割合が高くなっています。輸出用の注文生産品が多い一方で、有田に内外の需要のすべてが集中していたこともあったのでしょう、輸出向けだけではなく、日本国内向けの製品から選ばれて輸出された皿もありました。

主な作品

欧州輸出の初期主力作品

染付芙蓉手花盆文大皿

染付芙蓉手花盆文大皿
(そめつけふようでかぼんもんおおざら)

染付芙蓉手花盆文大皿
(そめつけふようでかぼんもんおおざら)

 ヨーロッパ輸出の初期には、中国・景徳鎮磁器に代わるものが求められました。その代表が「芙蓉手」(ふようで)と呼ばれる大小の皿です。「芙蓉手」とは側面を8つくらいに区画し、文様を描き込んだもので、芙蓉の花に見立てて「芙蓉手」と名付けられました。

藍九谷(あいくたに)と呼ばれた「大徳利」

染付牡丹文大瓶

染付牡丹文大瓶
(そめつけぼたんもんたいへい)

染付牡丹文大瓶
(そめつけぼたんもんたいへい)

 国内では「大徳利」と呼ばれた大瓶で、いかにもフランスのバロック風の金属装飾が付けられています。ヨーロッパではこの大瓶のように一対で飾られることが多かったのでした。このような染付は「藍九谷」と呼ばれていました

輸出初期を代表する色絵

色絵菊邸宅文蓋付壺

色絵菊邸宅文蓋付壺
(いろえきくていたくもんふたつきつぼ)

色絵菊邸宅文蓋付壺
(いろえきくていたくもんふたつきつぼ)

 色絵のことを赤絵とも言います。輸出初期の色絵は、赤よりも色絵の青の印象が強いものが多くあります。こうした色絵は、ドイツなどに類例が多く伝わっています。

海を渡った国内向けの皿

染付色紙盆栽朝顔文皿

染付色紙盆栽朝顔文皿
(そめつけいろえぼんさいあさがおもんさら)

染付色紙盆栽朝顔文皿
(そめつけいろえぼんさいあさがおもんさら)

 輸出初期には、国内向けに作られた上質の皿などがそのまま輸出された例も多くみられました。この皿も高台内に銘が記されており、有田の名窯柿右衛門窯で焼かれた国内向けの優品です。

第2章 好評を博した日本磁器の優美【延宝様式、1670〜90年代】

 オランダは伊万里磁器に中国陶磁と同様の高い品質を求めてきました。有田の陶工はこれに応えて、1670年代には完璧な乳白色の素地を作り出します。そこに繊細な色絵を施したものが、柿右衛門窯で作られた典型的な柿右衛門様式の色絵磁器です。有田に広がった柿右衛門様式の色絵は洗練を進めた染付とともに、ヨーロッパで好評を博しました。
 「磁器の間」に代表されるようなヨーロッパでの宮殿建築装飾の新しい流行と、1685年の江戸幕府による長崎貿易制限令から、より大形の壺と瓶による5点セットも作られるようになりました。

主な作品

欧州で好まれた蓋付きの大鉢

染付牡丹文蓋付大鉢

染付牡丹文蓋付大鉢
(そめつけぼたんもんふたつきおおばち)

染付牡丹文蓋付大鉢
(そめつけぼたんもんふたつきおおばち)

 蓋付鉢は輸出の主要な器種の一つでした。1680年代頃になるとより大きなものになります。こうした蓋付大鉢は色絵と染付の両方で作られています。同じような図柄の蓋付大壺もあり、セットとして作られていた可能性もあります。

これぞ典型的柿右衛門様式の逸品

染付牡丹文蓋付大鉢

色絵甕割人物文八角皿
(いろえかめわりじんぶつもんはっかくさら)

色絵甕割人物文八角皿
(いろえかめわりじんぶつもんはっかくさら)

 典型的な柿右衛門様式では大作ではなく、この皿のような小形のものが主でした。ひとつひとつを丁寧に焼いたためと考えられています。見込には、水甕を割って子供を救い出すという中国の故事「破甕救児」が描かれています。

ヨーロッパの形…ビールジャグ

色絵梅牡丹文手付坏

色絵梅牡丹文手付坏
(いろえうめぼたんもんてつきはい)>

色絵梅牡丹文手付坏
(いろえうめぼたんもんてつきはい)

 染付で描いた後に色絵を施すという広義の柿右衛門様式に属する作品です。取手上部にはヨーロッパで金属製のワンタッチ式蓋を取り付けるための小さな孔があけられています。

名窯 柿右衛門窯 染付の名品

染付梅山水人物文輪花皿

染付梅山水人物文輪花皿
(そめつけうめさんすいじんぶつもんりんかさら)

染付梅山水人物文輪花皿
(そめつけうめさんすいじんぶつもんりんかさら)

 色絵で名高い柿右衛門窯ですが、染付の優品も数多く作られていました。轆轤成形の後に柿右衛門窯が得意としたシャープな型打ちによって10弁輪花としています。

第3章 宮殿を飾る絢爛豪華な大作【元禄様式、1690 〜1730年代】

 1690年代になると、伊万里の色絵は優美な柿右衛門様式から絢爛豪華な金襴手(きんらんで)に変わります。宮殿建築の装飾用に、より大型の壺・瓶が注文され、90センチもの大型壺も作られました。1684年以降、中国磁器の本格的輸出が再開され、ヨーロッパ市場は中国磁器と伊万里磁器の競争の時代となりました。伊万里磁器も、中国的な意匠から、日本の風俗や景色などを描くものが多く作られるようになりました

主な作品

磁器と漆芸のコラボレーション

染付漆装飾花束菊文蓋付大壺

染付漆装飾花束菊文蓋付大壺
(そめつけうるしそうしょくはなたばきくもんふたつきたいこ)

染付漆装飾花束菊文蓋付大壺
(そめつけうるしそうしょくはなたばきくもんふたつきたいこ)

 この時期を代表する名品です。染付磁器に漆で蒔絵装飾を施しています。江戸時代の欧州への輸出品は陶磁器と蒔絵。この両者を組み合わせて作り上げた優品です。高さ90センチを超える大作で、ツマミは壺の形です。

描かれた日本の「春」と「秋」

色絵桜樹風景文大皿

色絵桜樹風景文大皿
(いろえおうじゅふうけいもんおおざら)

色絵桜樹風景文大皿
(いろえおうじゅふうけいもんおおざら)

 金襴手では、中国意匠に代わって、日本の意匠が描かれるようになりました。この大皿は、中央に大きく満開の桜と邸宅が描かれています。折縁の部分には、菊と紅葉が描かれていて、日本の「春」と「秋」の景色を表した皿です。

人気の5点セット…ちょっと珍しい形

色絵楼閣山水牡丹菊文六角蓋付大壺・大瓶

色絵楼閣山水牡丹菊文六角蓋付大壺・大瓶
(いろえろうかくさんすいぼたんきくもんろっかくふたつきたいこ・たいへい)

色絵楼閣山水牡丹菊文六角蓋付大壺・大瓶
(いろえろうかくさんすいぼたんきくもんろっかくふたつきたいこ・たいへい)

 ヨーロッパで好まれた蓋付大壺と大瓶の5点セットです。壺は肩が張り、瓶は胴を絞って口と底が広がるのが普通ですが、この作品はともに裾を絞った珍しい形です。黒地に金彩を施して漆の蒔絵のような効果をあげています。

金色の輝きとともに

色絵牡丹草花文鉢

色絵牡丹草花文鉢
(いろえぼたんそうかもんはち)

色絵牡丹草花文鉢
(いろえぼたんそうかもんはち)

 染付素地に色絵は赤・金の2色で飾っています。この鉢に把手から口縁をめぐって台脚と、かくもゴージャスな金色の装飾を付けました。もともとは一対で使われていたものです。

第4章 欧州輸出の衰退【享保様式、1730 〜50年代】

 1730年以降、伊万里磁器の輸出は衰退期を迎えました。中国・景徳鎮(けいとくちん)との価格競争に敗れたこと、輸出の相手であったオランダの衰退、そしてマイセンなどのヨーロッパでの磁器生産が拡大していくことなどが原因でした。この時期の金襴手は、以前に増して金彩が多く使われるようになりました。1757年以降には公式の輸出が終わり、私貿易がわずかに行なわれる程度となっていきました。

主な作品

磁器と金色のコラボレーション

色絵花鳥文蓋付大鉢 title=

色絵花鳥文蓋付大鉢
(いろえかちょうもんふたつきおおばち)

色絵花鳥文蓋付大鉢
(いろえかちょうもんふたつきおおばち)

 この華やかな作品は、フランス国王ルイ15世(在位1715 〜 74)様式という金属の装飾で飾られています。色絵は赤・金・緑・水・黒と多彩で、緑の葉の輪郭線を金で描くのはこの時期の新しい装飾法です。

色絵桐鳳凰文八角蓋付大壺

色絵桐鳳凰文八角蓋付大壺
(いろえきりほうおうもんはっかくふたつきたいこ)

色絵桐鳳凰文八角蓋付大壺
(いろえきりほうおうもんはっかくふたつきたいこ)

 この八角の面取大壺も金色に輝く金属装飾が魅力的な作品です。把手やツマミは奔放な波の表現、台には海獣が付けられています。

ヨーロッパ貴族の紋章の皿

色絵紋章草花文輪花皿

色絵紋章草花文輪花皿
(いろえもんしょうそうかもんりんかさら)

色絵紋章草花文輪花皿
(いろえもんしょうそうかもんりんかさら)

 注文により欧州貴族の紋章を入れた皿です。オランダ・ドルトレヒトのVan der Meij家の紋章と言われています。金彩と赤と緑だけで飾り、金襴手の中では異色の作例です。

日本趣味の人形と置物

色絵桜樹風景文大皿

色絵鯉乗り人物形置物
(いろえこいのりにんぎょうがたおきもの)
色絵兎文婦人像
(いろえうさぎもんふじんぞう)

色絵鯉乗り人物形置物
(いろえこいのりにんぎょうがたおきもの)
色絵兎文婦人像
(いろえうさぎもんふじんぞう)

 人形では柿右衛門様式が有名ですが、金襴手の時期には元禄美人図をもとにした人形が作られています。
 18世紀前半から中頃に、鯉を主題としたものがヨーロッパ向けにしばしば作られています。鯉に乗った人物というユーモラスなこの置物もそのひとつ。

特別展『パリに咲いた古伊万里の華』楽しむ“プチ”知識

中国 vs 日本代表・伊万里

中国 vs 日本代表・伊万里

 日本の磁器は、朝鮮半島の技術で中国の磁器を目指して始まりました。左の作品は、下半分が中国の芙蓉手(ふようで)大皿です。上半分はそれを目指して作られた伊万里焼の芙蓉手です。原料の違いから、底を見ると違いが分かるのですが、表の顔はかなり近いものを作り上げています。

上 :染付芙蓉手花鳥文大皿(そめつけふようでかちょうもんおおざら) 伊万里
下 : 参考 染付芙蓉手蓮池水禽文輪花大皿(そめつけふようでれんちすいきんもんりんかおおざら)
中国・景徳鎮(けいとくちん)(佐賀県立九州陶磁文化館蔵)

中国 vs 日本代表・伊万里

 左の作品は、1690 〜1710年代と、時間がたってからのもの。お手本の中国芙蓉手からは随分違って表現も和様化しています。

染付椿鳳凰文大皿(そめつけつばきほうおうもんおおざら)




柿右衛門様式の「広義」と「典型」

柿右衛門様式の「広義」と「典型」

 色絵磁器の中には柿右衛門様式と呼ばれるものがあります。「典型」的な柿右衛門様式とは、濁手(にごしで)と呼ばれる乳白色の上に色絵を施し、余白の美しさと鮮やかな赤が印象的です。この場合に下絵付の染付は行ないません。濁手の釉薬は鉄分を殆ど含んでおらず、染付は黒っぽい発色となってしまいます。
 「広義」の柿右衛門様式は、染付と色絵を併用します。ですから、濁手の乳白色ではなく、白地もわずかに青みがかっています。それでも余白を活かし、丁寧な絵付というところは共通しています。柿右衛門窯以外ではこの色絵が主体でした。

柿右衛門様式と金襴手様式

柿右衛門様式と金襴手様式

 素地を較べてみましょう。柿右衛門様式は乳白色。金襴手は幾分青みがかっています。次に、樹木の色。金襴手は染付による濃紺。柿右衛門様式は色絵の柔らかい青。釉の下に呉須(コバルト)で描く染付では、釉に鉄分が含まれていないと呉須が紺色となりません。柿右衛門様式では、染付をしないので、素地を本当に白くすることができました。
 さらに金。柿右衛門様式でも花に金彩が使われています。これが金襴手ではもっと大胆に使われ、線描にも使われています。 素地の白さに赤が浮かび上がる柿右衛門様式と、濃紺と赤、金と素地の白とのコントラストが面白い金襴手。

日本に無い形 あれこれ

 ヨーロッパに輸出された伊万里磁器には、江戸時代の日本には無かった形が沢山あります。皿の一部分を欠いた形は髭皿。髭を剃る際に欠けた部分を頸にあてるようにして使います。食器も独特です。銀蓋が付いた水注はオランダのデルフト陶器をモデルにしたもの。その隣にあるのは受け皿付きのチョコレート・カップ。右端はコーヒー・ポットです。
 作っていた日本の陶工は、何だと思っていたのでしょうね。

イメージ

古伊万里の技

染付とは
染付とは

 染付とは、呉須(ごす)〔コバルト〕で模様を描いたものです。素焼した素地の上に呉須で描き、その上に施釉します。この時点で描かれた模様は姿を消してしまいます。高火度の本焼で釉薬が融けて、何もない部分では白くなり、呉須で描いた所は青く発色します。釉薬の下に描く下絵付の一種です。
 染付の技術の応用編としては、染付の濃淡による表現、部分的に染付を抜いて白抜きとするなどの技もあります。

色絵とは
色絵とは

 色絵とは、釉薬を施して本焼した後に、釉薬の上に上絵具を使って描き、色彩を表したものです。釉薬の上ということで上絵付ともいいます。
 左の作品では、濃い青色は下絵付の染付の青です。赤、緑、黄色が色絵によるものです。金彩や銀彩も上絵付の技術で、大きな意味では色絵に含まれます。

型打ち
型打ち

 轆轤(ろくろ)で成形した後に、型にあてて、形を整えることを型打ちといいます。轆轤では同心円の連続する形しかできないものが、右の皿のように、輪花にしたり、時には模様をレリーフで表すこともできます。
 柿右衛門窯は有田の窯でも型打ちの優れた作品が得意であったことが、知られています。酒井田柿右衛門家には、現在も江戸時代に使われた多くの陶製型が伝わっています。

オランダ連合東インド会社航路図

オランダ連合東インド会社航路図 *右下にさらに拡大するボタンがあります

オランダ連合東インド会社航路図
*クリックすると拡大します