過去の展示情報

トピック展示 :

館蔵水墨画名品展


(*画像はクリックで拡大)

展示期間:

平成23年9月28日(水)〜11月6日(日)

展示場所:

文化交流展示室 関連第11室

概要:

 いにしえより様々な国や地域と交流することを通じて、自らの文化を展開させてきた日本。その文化を理解するために、アジアやヨーロッパへの窓口である九州の地に設立された当館は、「文化交流」という観点を開館より常設展示のテーマに掲げてまいりました。その「文化交流」の時空において、水墨画という美術のジャンルは、中国で誕生して韓国と日本でも受容された千年を超える歴史をもつため、とりわけ重要な意義をもっています。その長い歴史のなかで、水墨画は思想や文学などと強く結びつき、東アジアに特有の世界観を表象する芸術として圧倒的な支持をあつめました。本展は、この地域に咲いた伝統文化の精華をご紹介する絶好の機会になると言えましょう。
 水墨画に焦点をあてたトピック展示としては当館で初めての開催となるこの展示を通じて、モノクロームの世界が紡ぎだす水墨画の魅力を心ゆくまでご鑑賞いただければ幸いです。

主な展示作品:

指定 名称 作者 員数 時代 年代世紀 所蔵
  麻布山水図   奈良時代 8世紀 九州国立博物館
  白衣観音図 鏡堂覚円賛 1幅 鎌倉時代 13-14世紀 九州国立博物館
重要文化財 山水図 狩野正信筆 2幅 室町時代 15世紀 九州国立博物館
国宝 周茂叔愛蓮図 狩野正信筆 1幅 室町時代 15世紀 九州国立博物館
重要文化財 布袋図 伝牧谿筆、簡翁居敬賛 1幅 中国・南宋-元時代 13世紀 九州国立博物館
  瀟湘八景図屏風 金玄成賛 8曲1隻 韓国・朝鮮時代 15-16世紀
宣祖17年(1584)賛
九州国立博物館
  葡萄図屏風 李蔭庭筆 6曲1隻 韓国・朝鮮時代 17-18世紀 九州国立博物館
展示作品の紹介
*画像はクリックすると拡大します
周茂叔愛蓮図

国宝 周茂叔愛蓮図(しゅうもしゅくあいれんず)
狩野正信(かのうまさのぶ)筆
室町時代 15世紀
九州国立博物館

国宝 周茂叔愛蓮図(しゅうもしゅくあいれんず)
狩野正信(かのうまさのぶ)筆
室町時代 15世紀
九州国立博物館

 柳の枝をゆらして一陣の風が吹き抜ける開放的で清々しい光景。果てしなく広がる水辺、その蓮の合間に浮かぶ船上に二人の人物が描かれる。そのうち左の高士は、「愛蓮説」を著し君子の花として蓮をこよなく愛した中国・北宋時代の儒学者で、宋学の開祖・周茂叔(敦頤(とんい)、1017−1073)とみられる。
 作者は、画面右下の白文鼎印「正信」から狩野正信(1434−1530)と判明する。正信は、江戸時代後期にいたるまで画壇の主流をしめる狩野派の初代で、銀閣の建立で有名な室町幕府第八代将軍・足利義政(1436−1490)の御用絵師でもある。本図は正信による唯一の国宝であり、室町時代に京都で隆盛した東山文化の水墨画を代表する優品である。

布袋図

重要文化財 布袋図(ほていず)
伝牧谿(もっけい)筆、簡翁居敬(かんおうきょけい)賛
中国・南宋〜元時代 13世紀
九州国立博物館

重要文化財 布袋図(ほていず)
伝牧谿(もっけい)筆、簡翁居敬(かんおうきょけい)賛
中国・南宋〜元時代 13世紀
九州国立博物館

 太鼓腹を出して笑う丸顔で豚鼻の人物は、弥勒の化身として信仰を集めた布袋である。その表現は筆遣いがポイントで、髭や髪などには水気の少ない淡墨が用いられ、衣紋線では少し濃い水気の多い墨が用いられている。もっとも濃い墨は両眼の二ヶ所にしか使われておらず、本図の作者は墨の濃淡や滲みの法則を理解し、その特性を生かして巧みに布袋を描き出していることが分かる。
 画家については、中国の画僧・牧谿の伝承がある。牧谿は南宋時代末から元時代初にかけて活躍した僧侶画家であり、日本では「和尚」と呼ばれて特別視され、極めて高く評価された。江戸時代には徳川将軍家など権力者のもとで珍重され、日本では数百年以上にもわたり由緒ある中国絵画として知られていた。また茶会で鑑賞された掛幅としても高名で「腹さすり布袋」の愛称がある。

葡萄図屏風

葡萄図屏風(ぶどうずびょうぶ) 李蔭庭(りいんてい)筆
韓国・朝鮮時代 17〜18世紀
九州国立博物館

葡萄図屏風(ぶどうずびょうぶ) 李蔭庭(りいんてい)筆
韓国・朝鮮時代 17〜18世紀
九州国立博物館

 駆け抜けるように伸びる葡萄を、墨一色で描いた秀作である。
 本図のテーマである葡萄は西域からもたらされ、東アジアでは長く伸びる蔓と鈴なりの房が永続と豊饒を意味するとして、とくに子孫繁栄を願って美術工芸の意匠として盛んに造形された。とりわけ韓国では水墨画の主題として大変に好まれ、多くの葡萄図が今日に伝わっており、それらは伊藤若冲(いとうじゃくちゅう、1716−1800)など日本の画家にも影響を与えたことが知られている。なかでも本図は、朝鮮時代の葡萄図を代表する出来映えの優品であり、現存作例の少ない大画面の作例としても貴重である。

担当研究員のコメント

文字通りゼロから始まった九博の絵画コレクションも少しずつ数を増やし、水墨画だけでトピック展示を開催できるまでに至りました。今回は、館蔵品から国宝1件・重要文化財2件を含む全13件の名品を展示いたします。会場でじっくりと実物をご覧いただき、東アジアが世界に誇る水墨画の魅力をお楽しみいただければ幸いです。美しい図版と詳しい解説を載せたカタログにもご期待下さい。

畑靖紀(企画課主任研究員)

10月4日(火)、10月18日(火)にミュージアムトーク 開催!

トピック展示会場内において、担当学芸員による展示解説を開催します。
ご希望の方は当日、時間までにお集まりください。

○ 時間  :各回とも、15:00〜(30分程度)

○ 聴講料:無料(ただし文化交流展の観覧料は必要)


(*画像はクリックで拡大)