過去の展示情報

トピック展示 :

美を写す 〜模写と模造〜

展示期間:

平成21年1月21日(水)〜3月1日(日)

展示場所:

文化交流展示室第11室

概要:

 古典に学ぶこと、それは美術の世界でもとりわけ大切な事柄と考えられています。

 今でこそ芸術家の個性を尊重する風潮は強いのですが、歴史的にみて美術家には、まず古典をつぶさに学習して制作の基本的な技法を習得することが求められました。これは伝統を高く評価して正しく継承することに通じますが、それを達成するための有力な方法の一つとして、オリジナルの作品を忠実に再現する模写・模造の制作が長らく行われてきました。

 たとえば東洋の絵画では、ふるく中国・南斉(なんせい、479〜503)の評論家・謝赫(しゃかく)が制作の要点を述べた「六法(ろっぽう)」のなかで「伝模移写(でんもいしゃ)」を説いているように(謝赫『古画品録(こがひんろく)』)、模写を通じて古典の技術や精神を学ぶことが千五百年以上にもわたり重視されました。その意義は現代にも受け継がれており、日本では文化庁が実施している模写・模造事業をはじめとして、今でも数多くの美術家が多様な目的をもって模写・模造の制作を続けています。

 その最も主要な目的には、制作の過程で技法や材質を調べ、作品について詳細な知見を得ることが挙げられます。これに加えて、不慮の劣化や損傷に備えて作品の現状をそのまま写し留めること、移動や公開に制限のある実物の代替となることなども大きな目的と考えられます。そのため今日では文化財保護の観点からも、質の高い模写・模造の必要性が認められています。

 今回のトピック展示では、江戸時代の狩野派(かのうは)や現代の作家らが写した雪舟(せっしゅう、1420〜1506?)の山水画や平安時代の仏画・仏像などを通して、古今の芸術家が模写・模造の制作によって自ら学び、後世へ伝えた美の世界をご覧いただきます。

主な展示作品:

主な展示作品
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展示作品の紹介
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雪舟の流書手鑑(模写)部分

雪舟の流書手鑑(模写)部分 狩野常信模 紙本墨画淡彩
32.0×392.5cm 江戸時代 17−18世紀
東京国立博物館(原本:雪舟筆 室町時代 15世紀)

雪舟の流書手鑑(模写)部分 狩野常信模 紙本墨画淡彩
32.0×392.5cm 江戸時代 17−18世紀
東京国立博物館(原本:雪舟筆 室町時代 15世紀)

 原本は、室町水墨画のモデルとなった中国絵画の作風とテーマを雪舟(せっしゅう、1420〜1506?)が書き留めたもの。枠内に「雪舟」、枠外に手本の画家名が記される。掲載写真の部分は、中国・南宋時代に皇帝に仕えた画院(がいん)画家で、山水画を得意とした夏珪(かけい)を手本とする山水図である。
 江戸時代の画家たちは室町時代の絵画とくに雪舟の作品を盛んに模写して熱心に研究したが、この巻物には狩野派(かのうは)の代表的画家・常信(つねのぶ、1636〜1713)が雪舟を学んだ成果が表れている。