過去の展示情報
対馬宗家旧蔵の「図書」(図書印)と木印(重要文化財)
展示期間:
開館時〜 (現在展示中)
概要:
15世紀中頃から、対馬や博多では、組織的に架空の名義やニセモノの通交使節を仕立てて、朝鮮王朝に送り込んでいた。とりわけ、1510年の三浦の乱で日朝通交関係が一時断絶したあと、通交貿易関係を回復するために多くの偽使(ぎし)が作り出されたことが分かっている。その物的証拠ともいうべき歴史資料が、この“重要文化財 対馬宗家旧蔵「図書」と木印”である。いずれも、書契(しょけい)と呼ばれる日朝間の外交文書に捺印されるもので、おおむね、名義人の名前(実名、諱(いみな))が彫られている。展示品のほぼすべてが、16世紀後半に作られ、使用されたものである。
銅製の「図書」は、朝鮮側から賜与された本物のハンコ(銅印)であるが、刻まれた名義は架空の人物が多い。一方、木製の偽造印は、本物の「図書」(銅印)をまねて作ったニセモノのハンコである。同じ「ニセモノ」といっても、まったく意味が違うので注意が必要だ。
わけても興味深いのは、本資料中に、〔1〕足利将軍の名義の遣朝鮮国書に捺される「徳有鄰」が4つも含まれること(少なくとも4世代分の偽の足利将軍使節(朝鮮側では「日本国王使」と呼ぶ)が朝鮮に渡ったことを示す)、〔2〕豊臣秀吉宛朝鮮国王書(現品は宮内庁書陵部所蔵)に捺された朝鮮国王印「為政以徳」とまったく同じハンコが伝わること(蛍光X線分析により朱印の朱の成分まで一致した-つまり同豊臣秀吉宛朝鮮国書は宗氏により改ざんされたのである)、〔3〕毛利博物館に伝わる大内氏の通交証明の割り印「通信符」(現品は銅製)の、木製偽造印がここに含まれること、などである。ここに、対馬宗氏が手広く、しかもシステマティックに偽使派遣活動を展開していたことが明らかとなった。
今後、各地に残る日朝間の外交文書と本印鑑類とをつきあわせ、文化財科学の分析方法も交えることにより、日朝関係史の実像が新たに浮き彫りになっていくことだろう。この印鑑類は、多くの可能性を秘めた、九州国立博物館の誇る最重要級の歴史資料なのである。