展示情報
中国を旅した禅僧の足跡 旅の中の夢、夢の中の旅。時を歩む禅僧、無夢一清。 |
日中の文化交流を端的に示す書跡の一つの柱に、墨蹟(禅僧の書)があります。 鎌倉時代から南北朝時代にかけて、新たな仏教を大陸の禅に見出そうと、高名な禅僧の下で修行するため、多くの日本僧が海を渡りました。本場の厳しい指導と、それに応える修行者の研鑽により、宋・元時代の禅とその風土は日本に移植され、茶道をはじめとする、その後の日本文化の精神的な源泉の一つとなりました。
こうした日本僧の一人に、無夢一清(1294〜1368)がいます。元に滞在すること30年と長く、多くの師友と交流をもちました。それを証するかのように、無夢のために書き贈られた文章や詩、すなわち墨蹟が9通伝存し、入元中の足跡と交流を今に伝えます。こうした墨蹟は、彼の禅僧としての成長、精神的境地の深まりを物語るものです。ちなみに、一人の日本僧に与えられた現存する墨蹟数として、9通は突出した多さであり、無夢一清の修行の歩みを特色づけています。
帰国後は、京都・東福寺の第30世住職をつとめましたが、師の玉渓慧瑃ゆかりの備中(岡山県)・宝福寺の基礎を築くことに専念しました。中央で禅僧のエリートとして活躍するよりも、一地方に禅を根付かせようとする生き方を選んだようです。
ところで、無夢一清は、関連する遺品が大変少ないこともあり、今まで顧みられる機会が少なかった禅僧です。無夢一清にかんする初の展覧会である本展を契機として、あらためて歴史上の人物として銘記いただければ幸いです。
樵隠悟逸墨蹟 与無夢一清偈
しょういんごいつぼくせき むむ(むぼう)いっせいにあたうるげ
中国・元時代 至順3年(1332)
九州国立博物館所蔵
樵隠悟逸は、元時代の代表的な禅僧の一人。無夢という号にちなんで「邯鄲の枕」の故事を踏まえ、修行のコツを示したものです。心が睡らなければ妄想は自然に消えると説いています。
惟堂守一墨蹟 与無夢一清偈
いどうしゅいちぼくせき むむ(むぼう)いっせいにあたうるげ
中国・元時代 至順4年(1333)
九州国立博物館所蔵
修行仲間であった惟堂守一が、いまの江西省から湖南省への無夢の旅立ちに贈った送別のことば。惟堂守一の筆跡はこの1件のみ。この墨蹟の存在することで、彼がこの世にいたことが明らかとなるのです。
指定 | 作品名称 | 員数 | 時代 | 所蔵 | 展示期間 |
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無準師範墨蹟 尺牘(写) | 1幅 | 東京国立博物館 | 通期 | ||
重要文化財 | 雲頂徳敷墨蹟 尺牘 | 1幅 | 中国・南宋時代/13世紀 | 東京国立博物館 | 通期 |
重要文化財 | 円爾墨蹟 法語 | 1幅 | 鎌倉時代/13世紀 | 和泉市久保惣記念美術館 | 前半2週 |
重要文化財 | 馮子振墨蹟 与放牛光林語 | 1幅 | 中国・元時代/14世紀 | 九州国立博物館 | 後半4週 |
国宝 | 了庵清欲墨蹟 進道語 | 1幅 | 中国・元時代/至元7年(1341) | 東京国立博物館 | 通期 |
石室善玖墨蹟 尺牘 | 1幅 | 南北朝時代/14世紀 | 東京国立博物館 | 通期 | |
重要文化財 | 古林清茂墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/泰定4年(1327) | 三井記念美術館 | 後半2週 |
重要文化財 | 龍巌徳真墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至順2年(1331) | 根津美術館 | 前半4週 |
樵隠悟逸墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至順3年(1332) | 九州国立博物館 | 通期 | |
惟堂守一墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至順4年(1333) | 九州国立博物館 | 通期 | |
月江正印墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/14世紀 | 個人 | 通期 | |
東陽徳煇墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至元5年(1339) | 東京国立博物館 | 通期 | |
石室祖瑛墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至元3年(1337) | 五島美術館 | 通期 | |
重要文化財 | 石室祖瑛墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/14世紀 | 北村美術館 | 通期 |
了庵清欲墨蹟 与無夢一清偈 | 1幅 | 中国・元時代/至元6年(1340) | 静嘉堂文庫美術館 | 通期 | |
県指定 | 宝福寺条々式目 | 1巻 | 南北朝時代/延文6年(1361) | 岡山・宝福寺 | 通期 |
県指定 | 天得庵定書 | 1巻 | 南北朝時代/応安元年(1368) | 岡山・宝福寺 | 通期 |
県指定 | 上津江庄内三別所年貢料足定書 | 1幅 | 南北朝時代/応安元年(1368) | 岡山・宝福寺 | 通期 |
県指定 | 般若庵寺領置文 | 1幅 | 南北朝時代/応安元年(1368) | 岡山・宝福寺 | 通期 |
県指定 | 般若庵什物置文 | 1幅 | 南北朝時代/応安元年(1368) | 岡山・宝福寺 | 通期 |
木造玉溪慧瑃坐像 | 1躯 | 南北朝時代/応安五年(1372) | 岡山・宝福寺 | 通期 | |
無夢一清位牌 | 1基 | 室町時代/文亀3年(1503) | 岡山・宝福寺 | 通期 | |
前田家伝来名物裂帖 | 1帖 | 中国・元〜明時代/13〜17世紀 | 九州国立博物館 | 通期 |
*訂正
季刊情報誌「アジアージュ」Vol.32で「無夢一清坐像」(室町時代 15〜16世紀 岡山・宝福寺所蔵)としてご紹介した肖像彫刻は、当館搬入後に実施した詳細な調査の結果、無夢一清の師で、聖一国師(円爾)の弟子にあたる「玉溪慧瑃」の肖像彫刻(南北朝時代 応安五年(1372))であることが判明いたしました。ここに訂正させていただきます。
ミュージアムトーク
15時00分から30分程度