展示情報
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更紗はインドで生まれた模様染めの布です。人々がその布をまとい着飾っただけでなく、華やかな更紗は寺院やマハラジャの宮殿を彩りました。楽しげに飛び回る鳥獣、連綿と続く幾何学文、大地に根をはり天に伸びる花や木、ヒンドゥー教の神話、そして人間たち。更紗には森羅万象が描かれています。
インド更紗は、インド国内で愛用されただけでなく、インドネシア、タイ、アラビア、ヨーロッパや日本など、各地の好みにあわせた模様が、輸出向けにデザインされ、海を越えて世界各地に渡っていきました。世界に羽ばたいた更紗は、大航海時代の文化交流の大きなうねりを今に伝えています。
本展では、当館がこれまで積極的にあつめてきた名品をご紹介いたします。世界を魅了したインド更紗の世界を、心ゆくまでご堪能ください。
インドでは模様染めの布は長い歴史とともにあり、その美しさは、紀元後まもなくの頃にはローマまで知られていました。鮮やかな模様染めは早くから交易布としても輸出され、16〜17世紀頃には国外で「sarasso,sarasses」と呼ばれ、日本でも「さらさ」として知られるようになりました。
(部分)
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礼拝用掛布 クリシュナ物語図金更紗
クリシュナはヒンドゥー教のヴィシュヌ神の八番目の化身。周りにはクリシュナの心をとらえようと着飾った牛飼い女たち(ゴピ)が描かれる。本来はクリシュナ信仰のヴァッラバ派寺院の装飾に用いられたもので、ピチャヴァイと呼ばれる布。 |
ここではインドネシア、スラウェシ島の山岳地帯に住むトラジャ族伝来のインド更紗を紹介します。トラジャ族は外来のインド更紗を先祖代々大切に伝え、聖なる布として儀礼に用いてきました。
(部分)
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祭礼布 白地人物文更紗
人物の連続模様をあらわした更紗は、インドネシアで比較的まとまって見つかっていることから、当地で特に好まれたモチーフだったと見られる。インド更紗は一般に片面染めだが、インドネシア向けの更紗には両面染めのものが多く含まれており、本作も両面染めである。 |
大航海時代になるとインド更紗は洋の東西を問わず広く輸出され、各国の好みにあった更紗が作られました。ここで紹介する更紗のデザインはインドネシア向け、シャム(タイ)向け、ヨーロッパ向けのものですが、中には地域を越えて広く流行した更紗もありました。
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装飾布 白地花樹文更紗
本来はヨーロッパ向けにつくられたインド更紗。立木模様は生命の樹として各地で歓迎されたモチーフだが、ヨーロッパ人の好みに応じてより華やかな花樹があらわされるようになり、ベッドカバーや室内装飾用として愛用された。 |
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装飾布 緑地花繋ぎ文更紗
タイのアユタヤ時代のシャム王国は、自国の伝統的文様を用いた美しい模様染めの更紗をインドに発注して輸入してきた。シャム向けインド更紗の特徴は、布の端を段状に色を染め分け、白色の細い線を多用することにある。日本でも珍重されシャム更紗として知られた。 |
(部分)
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16世紀後半、日本にもインド更紗が輸入されはじめます。更紗は小袖などに仕立てられ人気を博し、大事な茶道具を包む布としても用いられました。しかし19世紀に入りヨーロッパでローラープリントや化学染料が完成され、より鮮やかなヨーロッパ更紗が生まれると、インド更紗にかわって輸入更紗の大部分を占めるようになります。
(表)
(裏)
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間着 格子絣更紗
格子模様の縁には描き染めで房飾り文や花唐草文がリズミカルに配列される。モダンで印象的な間着だ。小袖や着物の下に着用し、襟や袖から更紗の模様が見えるよう重ね着の美しさが演出された。 |
インドネシアのバティック(ジャワ更紗)の模様はじつに多様です。ジャワの伝統模様に異国のデザインがアレンジされ、独自の世界が生まれました。たとえば、ジャワ更紗の特徴である両端のギザギザ模様や意匠構成は、インドネシアに伝わったインド更紗にも見られるもので、両者の関係が深いことがうかがえます。
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腰衣 花樹鳥文金更紗
布の中央区画には、枝を広げた植物や花鳥が、赤、藍、黄、茶と華やかに染め上げられている。両端の鋸歯模様の片方は赤、もう片方は藍で染め、それぞれは「パギ(朝)」「ソレ (夜)」を意味する。気分に応じてどちらでも表に出して着装できる。 |
(裏面部分)
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腰衣 赤緑染分花鳥文金更紗
ジャワ更紗は布の両面に蠟を置いて表裏同じ模様が染め上げられる。華やかな花を表現したものは生まれた更紗はカイン(布)ブケット(花束)と呼ばれ、外国人の出入りの多い海岸地方で好まれた。染めはジャワ島、金箔はスマトラ島で置かれたもの。 |
担当者からのひとこと
インドで生み出された更紗の染織技法は2千年もの歴史を誇り、早くから貿易品として輸出されていたようですが、大航海時代になり、インド更紗が世界各地へ運ばれると、その軽やかな手触りや鮮やかな色彩は、世界の人々を魅了し広く愛用されました。なんと言っても当時人々を釘付けにしたのは、その鮮やかな赤色と生命力に満ちあふれた文様。化学染料のない時代、色あせない鮮烈な赤色がほどこされた布は、その美しさもさることながら、神秘性を帯びた布として受け入れられたのです。今回は九州国立博物館がこれまであつめてきた更紗の名品を展示し、インド更紗の広がりについてご紹介します。どうぞ会場でお楽しみください。
原田あゆみ(文化財課主任研究員)
ミュージアムトーク
原田あゆみ(九州国立博物館主任研究員)
15時〜 15時30分