展示情報

トピック展示 :
館蔵名品展 更紗
展示期間:
平成25年9月3日(火)〜10月14日(月・祝)

展示場所:
文化交流展示室 関連第9室

概要:

更紗はインドで生まれた模様染めの布です。人々がその布をまとい着飾っただけでなく、華やかな更紗は寺院やマハラジャの宮殿を彩りました。楽しげに飛び回る鳥獣、連綿と続く幾何学文、大地に根をはり天に伸びる花や木、ヒンドゥー教の神話、そして人間たち。更紗には森羅万象が描かれています。

インド更紗は、インド国内で愛用されただけでなく、インドネシア、タイ、アラビア、ヨーロッパや日本など、各地の好みにあわせた模様が、輸出向けにデザインされ、海を越えて世界各地に渡っていきました。世界に羽ばたいた更紗は、大航海時代の文化交流の大きなうねりを今に伝えています。

本展では、当館がこれまで積極的にあつめてきた名品をご紹介いたします。世界を魅了したインド更紗の世界を、心ゆくまでご堪能ください。

展示風景
展示風景(*画像はクリックで拡大)
展示作品の紹介
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01 インドからはじまる

インドでは模様染めの布は長い歴史とともにあり、その美しさは、紀元後まもなくの頃にはローマまで知られていました。鮮やかな模様染めは早くから交易布としても輸出され、16〜17世紀頃には国外で「sarasso,sarasses」と呼ばれ、日本でも「さらさ」として知られるようになりました。


主な作品
礼拝用掛布 クリシュナ物語図金更紗
礼拝用掛布 クリシュナ物語図金更紗
(部分)

礼拝用掛布 クリシュナ物語図金更紗
らいはいようかけふ くりしゅなものがたりずきんさらさ
南インド 18〜19世紀

礼拝用掛布 クリシュナ物語図金更紗
らいはいようかけふ くりしゅなものがたりずきんさらさ
南インド 18〜19世紀

クリシュナはヒンドゥー教のヴィシュヌ神の八番目の化身。周りにはクリシュナの心をとらえようと着飾った牛飼い女たち(ゴピ)が描かれる。本来はクリシュナ信仰のヴァッラバ派寺院の装飾に用いられたもので、ピチャヴァイと呼ばれる布。

02 祖先伝来の聖なる布

ここではインドネシア、スラウェシ島の山岳地帯に住むトラジャ族伝来のインド更紗を紹介します。トラジャ族は外来のインド更紗を先祖代々大切に伝え、聖なる布として儀礼に用いてきました。


主な作品
祭礼布 白地人物文更紗
祭礼布 白地人物文更紗
(部分)

祭礼布 白地人物文更紗
さいれいふ しろじじんぶつもんさらさ
インド(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 17〜18世紀

祭礼布 白地人物文更紗
さいれいふ しろじじんぶつもんさらさ
インド(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 17〜18世紀

人物の連続模様をあらわした更紗は、インドネシアで比較的まとまって見つかっていることから、当地で特に好まれたモチーフだったと見られる。インド更紗は一般に片面染めだが、インドネシア向けの更紗には両面染めのものが多く含まれており、本作も両面染めである。

浅葱地水草花文更紗

浅葱地水草花文更紗
あさぎじみずくさはなもんさらさ
インド・コロマンデル海岸(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 18世紀

浅葱地水草花文更紗
あさぎじみずくさはなもんさらさ
インド・コロマンデル海岸(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 18世紀

インドネシアに伝わったインド更紗にはボーダーに鋸歯状の模様をあしらったものが多く存在している。鮮やかな茜色と対照的に、中央区画は藍地に繁茂する水草を表し、周辺の地模様は淡藍の細かい点で埋め尽くされている。同様のインド更紗は17世紀頃日本にも伝わり、地模様を表す点描を、日本では「胡麻手」と呼んだ。

03 海を越えた異文化のデザイン

大航海時代になるとインド更紗は洋の東西を問わず広く輸出され、各国の好みにあった更紗が作られました。ここで紹介する更紗のデザインはインドネシア向け、シャム(タイ)向け、ヨーロッパ向けのものですが、中には地域を越えて広く流行した更紗もありました。


主な作品
装飾布 白地花樹文更紗

装飾布 白地花樹文更紗
そうしょくふ しろじかじゅもんさらさ
インド・コロマンデル海岸(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 18〜19世紀

装飾布 白地花樹文更紗
そうしょくふ しろじかじゅもんさらさ
インド・コロマンデル海岸(インドネシア スラウェシ島トラジャ伝来) 18〜19世紀

本来はヨーロッパ向けにつくられたインド更紗。立木模様は生命の樹として各地で歓迎されたモチーフだが、ヨーロッパ人の好みに応じてより華やかな花樹があらわされるようになり、ベッドカバーや室内装飾用として愛用された。

装飾布 緑地花繋ぎ文更紗

装飾布 緑地花繋ぎ文更紗
(そうしょくふ みどりじはなつなぎもんさらさ)
インド・コロマンデル海岸 18〜19世紀

装飾布 緑地花繋ぎ文更紗
そうしょくふ みどりじはなつなぎもんさらさ
インド・コロマンデル海岸 18〜19世紀

タイのアユタヤ時代のシャム王国は、自国の伝統的文様を用いた美しい模様染めの更紗をインドに発注して輸入してきた。シャム向けインド更紗の特徴は、布の端を段状に色を染め分け、白色の細い線を多用することにある。日本でも珍重されシャム更紗として知られた。

装飾布 緑地花繋ぎ文更紗 装飾布 緑地花繋ぎ文更紗
(部分)

装飾布 緑地花繋ぎ文更紗
そうしょくふ みどりじはなつなぎもんさらさ
インド・コロマンデル海岸 18〜19世紀

04 江戸を魅了した更紗

16世紀後半、日本にもインド更紗が輸入されはじめます。更紗は小袖などに仕立てられ人気を博し、大事な茶道具を包む布としても用いられました。しかし19世紀に入りヨーロッパでローラープリントや化学染料が完成され、より鮮やかなヨーロッパ更紗が生まれると、インド更紗にかわって輸入更紗の大部分を占めるようになります。


主な作品
間着 格子絣更紗
(表)
間着 格子絣更紗
(裏)

間着 格子絣更紗
あいぎ こうしかすりさらさ
インド・コロマンデル海岸(布地) 日本(仕立) 18世紀

間着 格子絣更紗
あいぎ こうしかすりさらさ
インド・コロマンデル海岸(布地) 日本(仕立) 18世紀

格子模様の縁には描き染めで房飾り文や花唐草文がリズミカルに配列される。モダンで印象的な間着だ。小袖や着物の下に着用し、襟や袖から更紗の模様が見えるよう重ね着の美しさが演出された。

05 ジャワに花開いた更紗―バティック

インドネシアのバティック(ジャワ更紗)の模様はじつに多様です。ジャワの伝統模様に異国のデザインがアレンジされ、独自の世界が生まれました。たとえば、ジャワ更紗の特徴である両端のギザギザ模様や意匠構成は、インドネシアに伝わったインド更紗にも見られるもので、両者の関係が深いことがうかがえます。


主な作品
腰衣 花樹鳥文金更紗

腰衣 花樹鳥文金更紗
こしぎぬ かじゅちょうもんきんさらさ
インドネシア ジャワ島北岸 20世紀前半

腰衣 花樹鳥文金更紗
こしぎぬ かじゅちょうもんきんさらさ
インドネシア ジャワ島北岸 20世紀前半

布の中央区画には、枝を広げた植物や花鳥が、赤、藍、黄、茶と華やかに染め上げられている。両端の鋸歯模様の片方は赤、もう片方は藍で染め、それぞれは「パギ(朝)」「ソレ (夜)」を意味する。気分に応じてどちらでも表に出して着装できる。

腰衣 赤緑染分花鳥文金更紗
腰衣 赤緑染分花鳥文金更紗
(裏面部分)

腰衣 赤緑染分花鳥文金更紗
(こしぎぬ あかみどりそめわけかちょうもんきんさらさ)
インドネシア ジャワ島(染) スマトラ島(印金)20世紀前半

腰衣 赤緑染分花鳥文金更紗
(こしぎぬ あかみどりそめわけかちょうもんきんさらさ)
インドネシア ジャワ島(染) スマトラ島(印金)20世紀前半

ジャワ更紗は布の両面に蠟を置いて表裏同じ模様が染め上げられる。華やかな花を表現したものは生まれた更紗はカイン(布)ブケット(花束)と呼ばれ、外国人の出入りの多い海岸地方で好まれた。染めはジャワ島、金箔はスマトラ島で置かれたもの。

担当者からのひとこと

インドで生み出された更紗の染織技法は2千年もの歴史を誇り、早くから貿易品として輸出されていたようですが、大航海時代になり、インド更紗が世界各地へ運ばれると、その軽やかな手触りや鮮やかな色彩は、世界の人々を魅了し広く愛用されました。
なんと言っても当時人々を釘付けにしたのは、その鮮やかな赤色と生命力に満ちあふれた文様。化学染料のない時代、色あせない鮮烈な赤色がほどこされた布は、その美しさもさることながら、神秘性を帯びた布として受け入れられたのです。今回は九州国立博物館がこれまであつめてきた更紗の名品を展示し、インド更紗の広がりについてご紹介します。どうぞ会場でお楽しみください。

原田あゆみ(文化財課主任研究員)


関連イベント

ミュージアムトーク

「更紗の魅力」

原田あゆみ(九州国立博物館主任研究員)

日時:
平成25年9月3日(火)
15時〜 15時30分

会場:
九州国立博物館 4階 文化交流展示室 関連第9室

聴講料:
無料(ただし文化交流展の観覧料は必要)


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