博物館からのお知らせ

平成17年度購入文化財の紹介1
「絵画—奈良時代から江戸時代まで」

麻布山水図(まふさんすいず)1面




分類:絵画
時代:奈良時代・8世紀
品質:麻布墨画淡彩、額装
法量:縦58.3×横69.2cm


 ゆったりと広がる水面に、四つの島を墨で麻布に描いた風景画。淡墨によって立体感を与えられた島には、樹木や草むらが描かれています。島を除く画面全体に繰り返し見られる5〜6本の細線を重ねた文様は、柔らかな波の動きを示すもので、奈良時代の絵画的表現を示す工芸品に共通して用いられています。樹木、草むらや島以外に、水に浮かぶ水鳥、牛に乗る牧童、四つ手網のような漁をしている人物二名、船二艘などさまざまな点景が見られます。透視図法にみられる一点消失法をとらず、それぞれの題材が同じ重要度を持って表現されており、広大な空間を感じさせる表現となっています。
 明治初年に東大寺東南院から正倉院に納められた麻布山水図とよく似ており、奈良時代8世紀にさかのぼる作品です。


白衣観音図
鏡堂覚円賛(びゃくえかんのんず きょうどうかくえんさん)1幅





分類:絵画
時代:鎌倉時代・13−14世紀
品質:絹本墨画淡彩、掛幅装
法量:縦88.2×横37.6cm


 水墨画のテーマとして流行した白衣観音図のなかで日本で最も古い作品です。画面上部には無学祖元と同時に来日した中国の禅僧・鏡堂覚円(1244-1306)の賛があるため、絵画の制作年代も鎌倉時代・13世紀をさかのぼる可能性が高い絵画です。
 岩上に静座する観音の体躯を的確にとらえて描写する本図は、中国の絵画表現を受け入れた日本の初期水墨画を理解するために、極めて重要な絵画作品です。また遺品が少ない鏡堂覚円の墨蹟としても貴重です。


唐船・南蛮船図屏風
(とうせん・なんばんせんずびょうぶ)6曲1双





分類:絵画
時代:桃山時代・17世紀
品質:紙本金地著色、屏風装
法量:各縦155.8×横360.4cm


 新発見の南蛮屏風の優品。日本に到着した黒い南蛮船と、南蛮寺に向かうカピタン・モールの一行を描く右隻は、いわゆる南蛮屏風の定型的な表現をとっていますが、左隻に白い唐船が入港する中国の港町を描くことはとても珍しく、本図の特徴の一つとなります。
 その画面は、モチーフを細部まで丁寧に描き込みながら、かつ全体を調和させる描写力が見所です。描いたのは狩野派正系の画家、おそらくは狩野孝信(1571−1618)の手により慶長年間(1596−1614)に制作されたと考えられます。

◎ 関連本の紹介 [詳細]


南蛮船駿河湾来航図屏風
(なんばんせんするがわんらいこうずびょうぶ)6曲1双





分類:絵画
時代:桃山時代・17世紀
品質:紙本金地著色、屏風装
法量:各縦152.7×横359.0cm


 右隻に黒い南蛮船を大きくあらわす南蛮屏風ですが、描かれた場所が特定できる点で類例のない作品です。画面の松原、塔のある寺院と関所は、それぞれ三保の松原・清見寺・清見が関を示すと考えられ、本図は駿河湾に来航した南蛮船を主題にすると考えられます。
 史実との関連からみれば、慶長12年(1607)、駿河滞在中の朝鮮通信使・慶七松が海上に一隻の南蛮船をみたと記録することが注目され、本図は正にその様子をテーマとする可能性が高いものです。特定の場所と出来事が絵画化された作品として貴重であり、さらに日本を舞台とした国際的な交流の広がりを理解する上で不可欠な南蛮屏風です。


群童遊戯図屏風
曾我蕭白筆(ぐんどうゆうぎずびょうぶ そがしょうはく)6曲1双





分類:絵画
時代:江戸時代・18世紀
品質:紙本銀地著色、屏風装
法量:各縦166.4×横370.2cm


 近年まで秘蔵されていた幻の曾我蕭白(1730-1781)の屏風絵。後世の画家による模写(コピー)で知られていた作品が出現し、当館の所蔵となりました。
 柳樹や牛、川などの背景を左右に配し、戸外に遊ぶ子供たちと二人の女性を描いた作品の特徴は、珍しく銀地をバックにする奇矯な人物の描写です。人物の服装が彩色や水墨、金泥を自由にもちいて描かれており、曾我蕭白の多彩な表現を伝える絵画として重要です。


琉球舞楽図巻(りゅうきゅうぶがくずかん)1巻



天保三年度 白銀の薩摩藩邸での琉球使節)


分類:絵画
時代:江戸時代・19世紀
品質:紙本著色
法量:各縦33.1×横1014.6cm


 豊見城王子を正使とする琉球使節が江戸上りして、天保三年(1832)閏十一月二十二日に島津重豪の江戸芝高輪・白銀邸にて舞楽を行った時の様子を描いています。
 琉球使節には、将軍の代替わりを祝う慶賀使と琉球国王の代替わりを感謝する謝恩使があり、寛永十一年(1634)から明治五年(1872)までの間に計十九回の江戸上りを行っています。天保三年度は、尚育王の即位にあたって送られた謝恩使です。
 第二尚氏時代のさまざまな琉球舞楽のありようを視覚的に知ることができて貴重なものです。なお、永青文庫には熊本藩の絵師と推定される杉谷行直が描いた同系統の写本が所蔵されており、本巻の製作事情を考える手懸かりとなります。