ろじ[路知]
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ろじ[路知]連載:赤米今昔物語 〜赤米に魅せられて〜 第八回(最終回)

安本 義正

赤米活用の今日事情(3)〜芸術・工芸の世界に花開く赤米〜

 赤米は米であるので、食品としての活用は当然のことですが、芸術・工芸の分野でも活用されています。最も注目されましたのは、染めの世界における赤米の活用です。赤米の糠が染めの材料に使われます。この他、黒米の糠や葉で、紫色をしている紫稲の茎・葉も用いられます。化学染料では出せない深みのある落ちついた色が生まれています。草木染三代目喜多長蔵氏が、初めて赤米の糠や紫稲による染めを手がけられ、萬葉染として発表されました。手法は本来の草木染と同じですが、相手が糠なので、かなり苦労されたようです。無媒染で染めれば、糠や藁のもつ本来の色が出ますが、媒染剤を用いると、色合いが変化し、萬葉の世界に誘われます。仕上がり具合は糠や藁に含まれる成分によって異なり、また温度の加減によっても微妙に左右されます。喜多氏は「色は私が出すのではなくて、自然に色が出てくるのです。」と言っておられます。喜多氏はアメリカオレゴン州立美術館や州立大学、ポートランド大学で萬葉染の実演もされ、見学者はその不思議な世界に魅了されました。筆者も氏に同行し、染を含む赤米の活用について講演をしましたが、赤色の米の話に現地の人々は驚いていました。



喜多長蔵氏が染めた着物
左:紫稲の茎・葉、中:黒米の糠、右:赤米の糠




紫稲


黒米の糠


赤米の糠

 染の世界と同様、古代のロマンを感じさせ、萬葉の世界に誘われるのが「生け花」です。出穂時の澄みきった赤い幼穂や深みのある赤穂、紫色の稲などを用いた「萬葉の生け花」の世界が繰り広げられています。



生け花(香山幸生氏による)

 子どもから大人まで楽しめるものに、赤米の藁や糠を使った紙漉があります。藁の部分を紙漉の原料にして紙を漉きます。糠は色づけに用います。紫色の稲を用いると薄紫色の紙が出来ます。藁100%の紙で、筆者は葉書や名詞を作って楽しんでいます。
ここでは、短時間で漉ける方法を紹介しておきます。

(1)まず、赤米の藁を4〜5センチメートルに切る。
(2)低濃度のアルカリ溶液に浸し、やわらかくなるまで数分間煮る。
(3)酸で中和して、よく水洗いする。
(4)一握り程度取り、家庭用のミキサーに入れ、水を半分程度入れる。
(5)約1〜2分程度ミキサーにかけると、繊維が残った半のり状になる。
(6)大きなバットに入れ、水を加えて薄める。
(7)適当な目の網で作った枠で溶液をすくい上げる。
(8)その上に1ミリメートル程度の厚さのアルミ板をのせ、よく押さえて水を切る。
(9)網をゆっくりとはがすと、アルミ板の方にピッタリとくっついて移し取られる。
(10)家庭用の電熱器等で厚手の金属板を熱し、その上に置いて乾かす。数分で乾くので、直ぐに出来上がる。急いで乾かす必要がなければ、(8)のところで、木版で押さえて、水を切り、(9)で網をはがして木版の方に移し取って自然乾燥させると出来上がり。しわになっていれば、アイロンで伸ばせばよい。



赤米の藁と糠で作った葉書

 以上のように、赤米は多くの可能性を秘めており、食文化の創造のみならず、芸術・工芸の世界など、幅広い文化の創造に羽ばたく力を持っています。その力を充分活用して、自然と文化と人間の調和と共生の道を探っていくことこそ、赤米が願っていることではないでしょうか。
 米の市場開放の問題が議論され、日本の米は一体どうなるのかと心配している人もいますが、赤米が復活したことは、単なる偶然ではなくて、現在の私たちの米作りに対して、生き方に対して、何か警鐘を与えてくれているようにも思います。米は経済問題の対象として捉えられていますが、私たちにとって大切な文化財産でもあります。米の持つ文化性や、米を育てる水田の役割について、環境問題など、広い視野で今一度考えてみる必要があるように思います。赤米はそのようなことを私たちに教えてくれているようにも思います。

 赤米に感謝しつつこの連載の第一部を終えます。


《第二部は夏頃連載予定》