Web連載『博物館のひみつ』

[アーカイブ]Web連載『博物館のひみつ』第1部 環境を守る
No.06: 博物館は一年中秋の気候
- 温湿度の管理
収蔵庫の内外温湿度データ

収蔵庫の内外温湿度データ

 人は環境の変化や状態の影響を受けて温度や湿度を感じます。文化財は材質によっての違いはありますが湿度の影響を強く受けます。湿度が高いと生物被害や錆を、湿度が低いと乾燥や収縮による剥がれを生じます。文化財は長年伝えられてきた最適の環境に調湿する必要があり、温湿度の管理は保存の上でとても重要なこととなるのです。

 では、文化財に使われている代表的な素材である紙を例にとってみましょう。湿気が高いと紙にもカビが発生します。カビは湿度が70%RHを超えると活発に繁殖するので、湿度を低くすることでその発生を抑えることができます。また、カビが発生するとカビを好む虫がやってきます。その連鎖が文化財への侵食に繋がっていくのです。しかし、紙は湿度が高くなるほど強度が低下し、湿度を低くすると乾燥してもろくなってしまいます。つまるところ、紙は55%RH前後の多少の湿気がある方が柔軟性があり扱いやすくなるのです。

 ではこのようにデリケートな文化財に対して博物館はどのように対処しているのでしょうか。ご存じの通り博物館の収蔵庫には様々な文化財があり、展示室にはその一部が陳列されています。

 展示室では温度を夏期26℃、冬期22℃、湿度を通年55%RHに設定しています。一日の温度変化の最大は4℃以内、湿度変化は7%以内、ケース内は3℃以内、湿度は2%以内に保つように調整されています。細かい調整はケース内に調湿剤をいれるという形をとり展示した品になるべく負荷をかけないようにしています。一方、博物館の心臓部、収蔵庫内の温度は夏期24℃、冬期22℃に設定して、湿度各を部屋で文化財の性質によって分けています。例えば漆器は60%RH、絵画は55%RH、金属は50%RH以下にするなど材質ごとに管理の方法が異なっています。他にも温度は一日あたり最大変化でも1℃以内、最大湿度変化は5%以内になっています。またここでは空調以外に一面を覆う白木の壁によって湿度が保たれているのです。

 文化財を多くの人に見てもらいたい、大切に守り伝えたい。だからこそ皆さんの目に触れない場所でも文化財をよりよい状態で残すため、長期にわたって保存するため、変化のない状況を維持するために…そんな努力の一つが博物館の温湿度の管理のもと行われているのです。

[2005.12.17掲載]
電子式自記式温湿度計(収蔵庫の中と外)

電子式自記式温湿度計(収蔵庫の中と外)